死に物狂い

他人から影響を受けやすい人間のフィクション日記

『Wake Up, Girls! 青葉の軌跡』を見てきました(あるいは青山一丁目紀行)

〔前段〕

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 Wake Up, Girls!(以下、「WUG」と言います。)を知ってからというもの、毎日がより楽しく感じられるようになったと思います。我ながら何を言っているんだという話ですが、寝覚めはスッキリ、姿勢はシャキッと(当社比)、仕事への不満も減少の一途。何故ならば、WUGのみんなを見るたびに、「自分も負けていられない」という気分になるからです。あんなに輝いている人たちがいる。だから自分も頑張ろうと思うわけです。
 何から書くべきなのか、本当に言語化するというのは難しいなあと感じずにはいられません。というわけで、草月ホールで行われた、WUGの新作舞台である『青葉の軌跡』(6/8昼公演)を鑑賞(観劇?)してきました。よもや自分が平日の昼間から舞台を見るためだけに有給をとって東京へ向かうなんて思ってもみませんでした。
 前回のライブ終了後には「アニメ見ないとな」などと言っていたのにもかかわらず、結局劇場版一作目しか見ていない体たらくで臨んだわけですが、特段問題はありませんでした。もちろん、アニメを見てからの方がもっと楽しめていたことは違いありませんが、舞台単独でも申し分なく完成していたものと思います。アニメ未視聴者からすると、アニメの再構成というよりかは、純粋にWUGの物語を見ることができたという感じで、これはこれで良かったのではないかと思っています(要は私のようなにわか者でもとても楽しめましたよということでございます)。以下、多少のネタバレがあります。

 〔行程〕
 Green Leaves Fesの興奮冷めやらぬ中、「次に行けるイベントは何か!?」と探して存在を知ったのが本公演でした。「勝手は分からんが行くしかない!」ということで勢いに任せて予約をし、S席引換券という聞き慣れないチケットを手に入れたわけです。
 平日朝の新幹線に私服で乗り込むのはどこか憚られたため、スーツを着込みサラリーマンに紛れ、さも出張なんですよという体で東京へ向かいました。新幹線も慣れたもの。切符を二枚差し込むことに驚くこともなくなりました。
 品川駅で降車し、人の多さに目がくらみつつ山手線へ乗り換えたところで人身事故が発生。英語達者な方が外国人旅行者に遅延の理由を説明しているのを聞きながら約10分間の足止め。さすがの大東京さに身を震わせていました。途中、社内でぶつ森のCMを見て涙目になる(定例)。
 渋谷で銀座線に乗り換えると、うってかわって乗客の少なさに驚きました。もし東京に住むなら銀座線沿線だな、と結論に至ったところですぐに青山一丁目に到着。駅最寄りのファミマで昼食を買い、「営業中の一休み感」を出しながらパンを貪り準備は完了。あとは会場に向かうのみです。

〔会場入り〕
 何やかんやで早く着きすぎてしまい、スタッフの方に促され、物販開始まで隣の高橋是清翁記念公園へ。どうやらワグナーさんたちの待機場所と化している様子。観光に来た外国人と昼休み中の会社員とワグナーが一堂に会すると言うと大げさですが、世の中には色んな人がいるんだよなあと感心せずにはいられませんでした(前もこんなことを言ったような気がする)。
 定刻直前、スタッフさんの呼びかけに応じ、みんなぞろぞろと会場入口へ。待機列形成時の諸注意が伝えられたあと、ゆっくりと物販が始まりました*1
 
〔物販〕
 何の誤解か、行きの新幹線で物販があることを知ったぐらいのレベルだったのですが、結局缶バッジ以外は購入しました(満足)。ところで他の人の買い物見るのって面白いですよね。I-1メンバーのブロマイドだけを買ってる人がいて、そりゃそういう人もいるよなと。WUGのことは知らないが、好きな役者が出演するから見に来てるって人もきっといるんですよね。そう考えて「ファンってすごいなあ」と列の中独り頷く。

〔客席〕
 舞台を見てまず思ったのは「客席と近すぎやないか!?」ということでした。なんだこれは!? 特にSS席の皆さん近すぎやしないか? 距離感がおかしいのではないか? そんなに近くで大丈夫なのか? 次々に疑問が頭を駆け抜け、結論として「舞台とはそういうものだ」と一人納得をし、当日引換券者らしく一階最後列の席に腰を下ろしました。しかしそれでも十分に近い。一体どうなってしまうんだ? 期待と不安で心がざわついていました。
 そんな中、前説が終わると同時に盛大に拍手が響き渡り、さらに驚かされました。それなりに大きなホールで落語を見ることがあるのですが、その終幕時の鳴り止まない拍手とはまた違う、小さな*2箱の中で反響する拍手の音にますます胸の鼓動が早くなっていました*3

〔開演〕
 開演時間を少し超えた14:05頃、ブザーが鳴り、Polarisとともに青葉の軌跡が始まりました。スポットライトに照らされるWUGちゃんを見て、再度思いました。近すぎやしないか。肉眼で表情の変化が見えるじゃないか*4。こんなことがあっていいのか……なんてことだ……。しかし、距離が近いだのなんだのという思考が渦巻いたのはここが最後でした。それは今回の舞台における本質ではなかったのです。
 みんなの足音が聞こえるというのが私には衝撃的でした。いや、当たり前のことなのです。人が動けば音は出ます。しかしライブ中にそれが聞こえたことはありません。というのは、当然ながら人の動作音なんかより大きい音が流れ続けているからです。今回の舞台にはライブシーンがあり、それ以外でもBGMが流れるものの、基本的には静寂に包まれているわけです。緊張感に包まれた空間で浴びせられる演技の応酬。掛け合いから生まれる"間"。見ているこちらのお腹が痛くなってくるほどに、最初から最後まで痺れっぱなしでした。
 そもそも開始早々に、松田さん(演:一内侑さん)と丹下社長(演:田中良子さん)の掛け合いで一気に引き込まれてしまったのです。とても面白い感覚でした。瞬間的に舞台しか目に入らなくなり、まるでこの世にあるのは自分と目の前の舞台だけなのではないか、なんだったら自分も存在しないのではないかと感じてしまうほどでした。役者(そして演技)の力というものをひしひしと感じた次第です。
 もちろん、WUGちゃんたちも負けていません。というか、WUGちゃんはWake Up, Girls!でした。今回の舞台全編を通して言えることではあるのですが、私は途中から、舞台上の人間を役者が扮するキャラクターだとは思わなくなっていました。島田真夢や片山実波がそこにはいたのです*5劇ではなく、彼女たちの努力とか苦難とかを天から覗いているような感覚。2.5次元ではなく、そこはまさに2次元の世界でありました。
 例えばですが、キャラクターとしての菊間夏夜と、演じる奥野香耶さんにはそこそこ大きな身長差があります(久海菜々美/山下七海さんもしかり)。しかし不思議とそこに違和感はなかったのです。夏夜が藍里の帰還を出迎えるシーンにおいては、奥野さんがすごい大きく見えました。何を言っているのか分からないと思いますが、そういうことだったのです。
 これはライブでは得られない感覚であるように思います。ライブの場合、少なくとも私は、ステージ上のWUGちゃんを三次元のアイドル声優ユニットであるWake Up, Girls!として認識しています。しかし、今回の舞台はそうではなかった。語弊を恐れずに言えば、主役はWUGちゃんではなく、Wake Up, Girls!だったのです。仙台で活動を始めたばかりのアイドルユニットそのものだったのです。WUGちゃんたちを介して、彼女たちの思いを見せてもらうことができたのだと感じています。
 I-1に関しては、私の不徳のいたすところで、そもそもキャラクターのパーソナリティをちゃんと理解できていなかったことに加え、役者の皆さんについても存じていないかったが故に、むしろより自然に「この人たちがI-1Clubなんだ」と実感しました。ダンスのキレもすごかったのですが、メンバー間の掛け合いが完璧だったと思います。「この人たちが日本のアイドル界のトップを走っている」ということに疑いの余地はありませんでした。
 そして、今回絶対に忘れてはならないのは早坂さん(演:福山聖二さん)の存在です。松田さん・丹下社長と同じく、一瞬にして場に緊張感をもたらせる人です。個人的に、今回の登場人物の中で最もアニメ的・漫画的なキャラクターだと思うのですが、その所作に全く違和感を覚えることはありません(これは福山さんの演技力が為せる技かもしれません)。デフォルメされてはいますが、決して大げさではない演技で、WUGの導き手となるその姿に、片時も目が離せませんでした。
 Twinkleのお二人については歴戦の強者+何でも知ってるお姉さん感に溢れる一方、事務所の社長椅子に座って遊んでいるシーンなんかは可愛らしく、早坂さんとは反対に緊張した空気を柔らかく(優しく)する役割を果たしていたと思います。そう考えると大人4人のバランスが(も)絶妙なんですよね。

〔終演〕
 終わってみれば、ライブ以上に短く感じる二時間だったと思います。舞台終了後に、コール・ペンライトOKのライブパートが10分ほどあったのですが、私は可能であればそれよりも、もう10分長く舞台を見ていたかったと思います。もちろん、声を出して応援するのも楽しいのですが、この日はそれよりもできる限り長くWUGの世界を見ていたかった。そしてその余韻に浸りたかった、そういう気持ちでした。
 舞台中にもライブシーン(ただしコール・ペンライト不可)があるのですが、静かに演者が目の前で踊る姿を見るというのは、ライブBDを独りでただニヤニヤしながら鑑賞する自分のような人間にとって、尋常でなく贅沢な時間でした。言わば関係者席で見ているような*6。非常に物狂ほしけれ。
 そんな感じでしたから、終演のアナウンスが流れたとき、私は悲しくて仕方がありませんでした。もっと見たい。もっとこの世界を見ていたい。もっともっとみんなの演技が見たい。こんなことは言ったところでどうしようもないのですが、また是非とも舞台を企画してほしい。舞台上の世界がこれほどまでに完成しているのは、それこそ今までにWUGに関わってきた人間全員が積み上げてきたものの結果なのでしょう。でもWUGはまだまだもっとすごいものを作り上げてくれそうな気がしてならないのです。だから私は応援します。できる範囲で、という但し書きはついてしまうのですが。
 
〔その他〕
・演劇においてOPの存在が一般的なのかは知らないが、プロジェクションマッピングと相まって、えげつなく楽しげな雰囲気に溢れており、もし映像化されたら多分延々見ていられると思う。
・その点でいうと今回映像化されるかは不明らしいが、贅沢は言わないのでDVDでもいいから売ってほしい。贅沢を言うなら全日程BDに詰めて売ってほしい(お金は出す)。
・アドリブ(と思われるところ)でしっかりと笑いをとっていくのは気持ちが良かった。
・ライブでワグナーを煽る、かっこいいまゆしぃの姿も好きだけど、今回のような落ち着いた女の子の役もすごいハマっていると思う。何でもできる人なんだろう。早川さんによるトレーニングシーンで一人完璧にメニューをこなしている姿が素敵。佳乃の藍里説得シーンでは一言も発せず場にいるのだが、このときどういう表情で二人を見守っていたのか、私の席の角度からは確認できなかったのが心残り。でもきっと、島田真夢の表情だったのだろう。
・よっぴーって普段のテンションがそもそも演劇的なんだなと思った。単にオーバーリアクションという話ではなくて、感情表現の仕方がという意味で(演劇的の定義がないので非常に観念的ではある)。藍里説得シーンでは、一人長台詞を畳み掛けていくわけだが、少しずつしかし確実に感情が昂ぶっていくなかで、最後の「戻ってきてよ! 藍里!!」が胸に響く。でも一番心を揺さぶられたのはその直前の「これは、リーダーとしての、はじめての命令なんだから」のところ。リーダーとは何かを悩んでいた佳乃の決意(でもまだ自信があるわけではない)を感じさせるとても良い演技だったと思う。
・なんであいちゃんは踊れなさそうに踊れるのだろう。あんなに自信なさげな所作ができるのだろう。見てて心が痛くなる。そんなに申し訳なさそうにしなくていいじゃないか。そんなに卑下しなくていいじゃないか。悲しそうな顔をしないでくれ。早川さんに詰められるシーンはもう見ていられなかった(心情的に)。だからこそ、見てるこっちは、皆のもとに帰ってくるところで泣いてしまうわけである。本当によかったね。
・みにゃみがいると場が明るくなるというのは、片山実波もそうであるし、田中美海もそうである。コメディパートでの活躍が目立ち、発言はだいたい面白い。ヨガ(?)のポーズを間違えて真夢に指導を受けるシーンが個人的に最大風速(これを真顔でやるところが良い)。セリフの無いところでも、ぴょこぴょこ色々やっていて、見落としたのところも多そう(みにゃみに限る話ではないかもしれない)。シリアスシーンでも純真さが輝いていて、早坂さんに選択を迫られた後の「もうやめて!!! お腹空いた!!!」と、菜々美に対しての「7人揃ってWUGなんだからね」のところ、みにゃみは実波のWUGに対する真っ直ぐな思いを表現しきっていたと思う。そもそも実波には藍里を切る選択肢など、初めから存在していなかったのだろう。
・ななみんはやっぱり取り巻く空気感が違う(ように思う)。もちろん褒め言葉である。その一挙手一投足に目を惹かれてしまうのは、そういう星の下に生まれた人間だからと片付けてよいものではなく、いかに意識して一つ一つの動作を行っているかの所産であることを認識する。今回の菜々美は不安や困惑に襲われているシーンが多かったように思うが、特にWUG内で揉めた後の「もう辞める!」からの流れは菜々美の弱さと幼さが強調されていて、「まあ落ち着けって」と慰めたくてたまらなかった。そこからの最終的な「辞めないわよ!」はもう顔が綻ぶ。
・菊間夏夜が持つ強さと優しさを(そして弱さも)余すところなく観客に伝えられているのは、かやたんの演技力の賜物なんだろうと思う。体躯なんて要素の一つでしかないことを思い知らされる。悪態をついたり、緊張してたり、冷静にツッコんだり、「職場にこんな人いたらすごい頼もしいだろうな」とふと思ってしまう。上にも書いたので省くが、藍里の帰還を出迎えるシーンがものすごく印象的で、ここで外形的な違和感を全く覚えなかったことが、舞台上に居たのは菊間夏夜だったことの証拠だと思っている。
・未夕って不思議なキャラクターだなあと思う。口調は柔らかくて、言い回しもより演技がかった感じなのに、要所要所でさらっと、他人を勇気づける台詞を言える。計算高いというのは違う。頭がいいことに加えて、他人を常に気遣っているのだろう。みゅーちゃんはそこをとても自然に演じているように見える。場の軽重にあわせて声の調子も変えているのだが、とはいえそこまで大きく変化させてはおらず、しかし「あ、今未夕はすごい真剣なんやわ」と思わせられる感じ。多人数や場そのものに対して発言する時と、個人に対して発言する時で意識の仕方が違うような気がする。「~ですかぁ」の「ぁ」がとてもすき。
・丹下社長を始めとする大人組を舞台で掘り下げるという選択肢も十分にあると思っている。というか、やってほしい。
・狭めの会場におけるコールは響き方がすごい。
・『みにゃみのとぅえんてぃーず』の特典ブロマイドはいつ公開されるのでしょうか。
・ライブからライブまでの毎日もライブって真理。

・アニメ見ようね。

*1:実際こういうときに押したり走ったりする人っているんでしょうか。

*2:草月ホールは決して小劇場の規模ではないものの。

*3:この時、前の方が下手側に一瞬大きく手を降っていたのですが、誰かが顔を覗かせていたのでしょうか。気になります。

*4:演技が視認できないと意味がないので、そもそもそういう設計になっているのでしょうか。

*5:そのように演じているのだから、当然といえば当然なのかもしれません。

*6:関係者席で見る方々は表立ってコールしたりライトを振ったりしないという勝手なイメージ。