死に物狂い

他人から影響を受けやすい人間のフィクション日記

破壊と再生、再生と破壊―Wake Up, Girls!舞台「青葉の軌跡」BD化記念上映イベントに行ってきました―

 青葉の軌跡は私にとって思い出深い舞台です。というのは、Green Leaves Fesで初めてWUGちゃんのライブに参加し、「これからついていこう!」と意気込んだ直後のイベントだったからです。ブログにライブ等々の感想を書き連ねていこうと思った決定的なきっかけでもあります。その後日を待たずして息が止まる思いをすることになるわけですが、それも含めて印象深いわけです。後になって、本公演の円盤化が確定しているわけではないことを知り、WUGとしての最後の舞台だったかもしれなかったことを理解したとき、平日に休みをとってでも見に行ってよかったなと思ったものです。ともあれ円盤化して本当によかったです。

 そんなわけで、10/20(土)に世田谷区民会館で開催された、青葉の軌跡BD化記念上映イベント昼・夜の部に参加してきました。舞台自体は過去のものであり、ネタバレというネタバレはありませんが、舞台内容に言及しますので、読んでいただける際にはその点予めご了承いただけますと幸いです。(と、ここまでを高木さんのDJプレイを聴きながら書いた。)

 【昼の部】

 何も心の準備はしていなかった。

 しかし、その準備をしていなかった心に杭をぶっ刺してきたのは早坂さんを演じる福山さんでした。他の演者が皆おそろいのTシャツで登壇する中、一人完璧な早坂ルック。にもかかわらず、周囲から殊更にいじられる姿に、舞台上とのギャップが大きい。結局素の福山さんがどういう方なのかが分からずじまいでしたが、少なくとも素晴らしい役者であることは分かりました。実際のところ終始観客を気遣っておられ、今回は福山さんあってのイベントであったと言っても過言ではないと思っています。

 そうして開始の挨拶もそこそこに、演者さんたちは客席中央へと移動し、青山・山下・高木さんの振りで映像がスタートしました。

 

〔改めて映像を見て思ったこと〕

(演技における表情の役割)

 草月ホールは良くも悪くもそこまで広い会場ではなかったこともあり、当日券の席でも演者の表情を認識することはできました。しかしながら、角度的な問題はどうしようもなく、上手側後方の席から見ていた私は、下手に向かっての演技を見ることができませんでした。

 これにより、色々と視認できなかった場面があったわけですが、中でも気になっていたのが藍里説得シーンにおける真夢、もとい吉岡さんの表情でした。一体どんな顔で藍里へ声をかけていたのか。BDでは、カメラに真夢のみを映し、セリフ中はそこからさらに少しずつズームしていくという形で、その様子が明瞭に収められていました。

 その姿を表現するだけの語彙力が私にはありませんが、言うなれば「悲しさと優しさ」が混ざりあったような表情でした。なぜあいちゃんはそんなにも自分を卑下するのか。もう一度アイドルをやろうと思えたのは、自分自身と向き合うことができたのは、ひとえにあいちゃんのおかげなのに。それだけまゆしぃにとって大きな存在であるのに。どうしてそんなことを言うのか。でもきっと、まゆしぃはあいちゃんがそう言ってしまう理由も思考回路も分かっているはずで、だから真っ直ぐに言葉を投げかける。笑うわけでもなく、眉をひそめるわけでもない。真っ直ぐに真っ直ぐに。どちらかといえば真顔に近いと思うのです。決して微笑み投げかけるわけではない。しかし、そこには慈愛が満ちているように感じられる。それこそが、あのときに島田真夢がしていた表情だったのでしょう。

 表情でいうともう一つ、藍里を切らないと決めたあとの、「7人でWUGなんだからね!」における実波の表情も印象的でした。こればかりは、3次元の人間だからこそのものだったのではないかと感じています。菜々美の「辞める」という発言を心から心配する目。場がまとまったあの段階では、実波も菜々美が本当に辞めるとは思っていないはず。でも、辞めてしまったらどうしようとの心配は晴れない。だから、怯えるとまではいかないまでも、ある意味恐る恐る確認する。眼の前の事象をどれだけ深刻に捉えているかが分かる演技だったと思います。その後の笑顔もいいんですよね。

 

(舞台における間)

 どちらが良いという話でもなく、また単に尺の問題もあったと思うのですが、改めてアニメと舞台を比較すると、舞台では全体的に間が大きく取られているように思います。特に早坂さんに決断を迫られてから藍里が帰ってくるまでは静寂に包まれるシーンが続き、これがより一層7人のおかれた状況の緊迫感を高めているように思いました。

 この点、10分で決めろと早坂さんに言われてから未夕が「どうするんですか」と発言するまでのシーンは見てる方としても苦しかった。時計のチクタク音がした後、誰も一切発言せず、お互いの様子を伺う。ただ過ぎていくだけの時間に対し、その顔は焦りを隠せず、しびれを切らした未夕が口を開く。測ったわけでもないのでなんとも言えませんが、実際に経過した時間よりも長く感じられたと思っています。本当に焦っているときに通常では考えられないぐらい頭が回転した、といった経験が皆さんにもあると思うのですが、まさにそんな様子といいますか、全員の頭の中で「藍里を切るべきか。切らぬべきか」との思考が延々と駆け巡っているように感じられるのです。このシーンを見ると自分まで緊張してしまうのは、そこが理由だったのかなと思っています。そりゃお腹も空くわ。

 

(七瀬佳乃の苦悩)

 改めて見ると、全体を通して「笑顔」が少ない舞台であったように思います。苦悩、挫折、そしてまた苦悩。もちろんコメディパートはどれも楽しかったのですが、振り返るとまず目に浮かぶのは皆の険しい表情です。

 そんな中、この舞台に主人公がいるとすれば、私は佳乃だと思っています。よく分からぬままにリーダーとなり、島田真夢ありきのユニットと称されることに悩み、それでもユニットをまとめることに苦心する。最初から最後まで、ほぼずっと悩み続けていたのではないでしょうか。結局藍里を切らないという選択でまとまったのも、真夢の言葉があったから。でもそこから"リーダーとして"藍里を連れ戻すことを決意する。そして、最終的に藍里が戻ってくるのは、もちろん真夢の言葉も大きな意味を持ってはいるものの、リーダーとしての佳乃が心から想いを伝えたからだと思うのです。だからこれは、七瀬佳乃の成長譚であったのだと、そう思っています。

 佳乃の悩みが重く感じられるのは、青山さんの演技に起因するところが大きいとも感じました。今になってまたアニメ一期を見返していたのですが、このときの演技とは明らかに異なります。舞台のほうが重いのです。佳乃の想いが重い。アニメと舞台では求められる演技が違うのだと言われればそれまでかもしれません。ただ、舞台の佳乃は本当に悲痛です。「決採るかどうかの決取ればいいの?」のところなんてもうただのヒステリーです。焦って焦って戸惑って。自分でもどうすればよいのかわからなくなって。でもそこを乗り越えていく。センターとリーダーの違いとは何でしょうか。なぜリーダーはリーダーなのでしょうか。どうしてWUGのリーダーは七瀬佳乃なのでしょうか。その一端を深く感じられるシーンであったと思います。そんなわけで記念に青山さんのブロマイドを購入しました。

 

(あの時私は解散を知らなかった)

 だから今になって見ると別の感情が浮かんでくると言いますか、端的には丹下社長のセリフである「あの子達の前にはまだまだ道が続いているのよ」(曖昧)がもう全てだなあと感じた次第で、もはやこの舞台自体が解散に向けたまずもっての花道だったとは言い過ぎにしても、Part2のリーデイングライブを聴いてから「いつか自分たちで歌詞を書きたいね」なんてセリフを聴いた日には、やはり全てが今に至るまでのお膳立てだったのではないかとまで思ってしまうわけでありまして、我ながらよくわかりませんが、やってくれるなあと独り唸っていました。アイドルっていうのは物語なんですね。

 

【夜の部】

 泣く準備はできていた。

 昼の部ラストにおいて、福山さんが「客席にマイクを持って行けはしないのか。場面場面でコメントを入れたほうが楽しいのではないか。観客もそういう話が聞きたいだろうし」と提案したことにより、夜の部は要所要所で演者からの解説が入る仕様となりました。分かっておられるとしか言いようがない。それを認めてくれたスタッフの方々にも感謝。

 とはいえ、残念なことにコメンタリの内容はどんどん頭から抜けていっているところ、印象的で覚えていることを書いていこう。

 ・早坂さんとI-1の「どうしてもっていうなら…」くだりは、ゲネプロのアドリブで生まれたもの。あんなに完成しているのに、つくづく舞台はナマモノなんだなあと思う。

 ・奥野さん1000円札落下後、早坂さんは裏で必死にあのセリフを考えていた。(許可も得た)

 ・「すれ違っていく…」(曖昧)でWUGちゃんがゆっくり歩くところ、その舞台裏では福山さんがいつも真似をしていた。(そして山下さんはいつも若干よろけていた)

 ・早坂さんが大股なのは早く舞台から捌けたいから。

 ・ライブ後、7人でその出来に落ち込むシーン。まゆしぃだけ他メンバーと少し距離が空いている。

 ・千穐楽では松田さんも円陣に加わった。(客席からは拍手が起こった)

 ほとんど早坂さん関連だった。

 

【破壊と再生、再生と破壊】

 どこまで本気で話をしていたのかは全くわからんのですが、標記は福山さんが昼の部・夜の部それぞれの締めの言葉として用いたもの。特に夜の部では「一度終わっても、皆が願えばまた始まる」(意訳)と、とても胸打つことを仰っていました。(だからこそ、そういう流れであったとしても途中で切られたのがとても残念。)

 何を破壊として、そして再生と見るかで状況はこんがらがるような気がするのですが、いずれにせよ「再生と破壊は循環する」ということなのだと思います。だから私も、WUG舞台続編を諦めません。松田さんも言っていたじゃないですか。「二度あることは三度ある」って。

 

【その他】 

・この日の個人的MVP(MVWか)は「喋った!?」と声を挙げた方。

・メッセージボード企画というのがありました。

  夜の部、奥野さん宛に「結婚しよう。"はい"か"Yes"で答えてください」(無記名)というメッセージがあったのですが、それに対して奥野さんは「無記名だから駄目です」と答えた。こういうところがガチ恋勢製造機ポイントだと思いました。「無記名だから」を理由にしているところですね。「じゃあ記名だったらどうなってたんだ???」という可能性を感じさせる。いやあ恐ろしいですね。感動しました。(何の話)

・トリではない青山さんのMCはとてもまとまっている。

・トリを任された高木さんのMCはいつもより言葉を選んでいる感じだった。二人とも真面目なんだなと思う。

・カメラが入っていたが、また何かに使ってくれるのだろうか。

・舞台パートで島田真夢をやりきってからのライブパート吉岡茉祐の高低差たるや。

・あくまでも声優ユニットとしてのWUGが解散するだけなのだから、それぞれが演者として舞台に集結し、キャラを演じる形でライブを行うのは問題ないのだろうかという抜け穴の妥当性について考えたが結論は出なかった。(多分駄目だな) 

 

【気になったところ】

 同じようなイベントをBD発売後にもう一回やってほしいなあと思うのでこのようなことを書く。

 ・ペンライトおよび声掛けOKとの条件は、もう少し広く周知していても良かったのではないか。(会場でその情報をはじめて聞いたっぽい反応の方が多かった印象。ただしこれはただの印象である。私が知らなかっただけという話でもある。)

 ・世田谷区民会館の客席は、人が2時間45分座り続ける状況を想定していない。(要するに体が痛い)

 ・稽古風景の画像をバックにしてのトークパートは、観客の注意を散漫させることになっていたのではないか。(皆で画像を見て話をするか、トークのみに集中するかしたほうが良かったのではないか。)

 ・上映中にコメントを入れる選択をしたのであれば、もっと積極的にしゃべってもらっても良かったのではないか。舞台映像の音声と被り、マイクの声が聞こえづらかったため、いっそのこと映像の音量を絞るという選択肢もあったのではないか。ただこれは急遽決まったことだろう(事前に何を話すかの詳細な打ち合わせもないだろう)から、仕方ない部分もあると思われる。

 ・メッセージを読み上げる際のルールはもう少しちゃんと統一したほうが良かったのではないか。

  ・登壇者の数は悩ましい。少し多かったのかなあ。舞台が華やぐのはいいことなんですが、時間的な猶予がないため、一人あたりの発言時間が限られることになる。ストレイシープパラダイスの宣伝も兼ねてということだろうから、仕方のない部分ではあるか。

 

 以上、皆さまにおかれましては健やかにおられますよう。